あらたま@メモ魔通信

くらしの一コマ、ねこ、きもの、ラーメン、読んだ本、などな日々の活動メモ。書いて、読んで、猫と暮らす。丁寧ではないし、断捨離もしてないし、OLもしてません。

【読書記録】カケラ

 湊かなえ作品を並行して読むことにした。

 『告白』と本書。いみじくも、吐きそうになるくらい強烈な自意識のぶつかり合いが共通テーマっぽい……。


【読み始め】2023年6月4日
【読み終わり】2023年8月27日

 

 

 

2023年6月4日
 最初っから飛ばすなあ!というのが第一印象。
 『羊と鋼の森』を読み終わった直後にこんな開幕数ページを喰らうと、レトリックでなしに目が覚める。
 湊先生に「アンタの軸足はこっち!」と後頭部を引っ叩かれた気分。
 
 
2023年7月15日
 世間がSNSの誹謗中傷の贖罪を叫ぶ今、この作品の生々しさにため息が尽きない。
 私たちに必要な物語?湊かなえに決まってんだろ!
 わりと真面目に、そう提示したい。少なくとも私にとっては、全き最適解。
 
2023年7月18日
 『告白』のスタイルと違って、一方の会話を切り取る形式が癖強めの本書。
 某テレビドラマの、電話応答シーン「なに!○○を▲▲した御遺体!?」くらいの会話の不自然さと、ドウシテソウナル展開が、ようやく肌に馴染んできた……気がする。気がする、と予防線張ってしまうのは、やっぱりところどころで違和感を覚え「そこ、会話のキャッチボールできてなくない?」とツッコミを入れてしまうから。
 しかし、この違和感さえも、きっと物語の全貌が見えてきた時に「そういうことか!」と納得できる……ハズだ。そう信じて読み進める。
 
2023年7月19日
 どす黒い感情の吐露。それも本人を目の前にした、止められない激情。
 こういう場面を書く時って、湊氏はどんな表情をしてるのだろう?やっぱりウキウキ、楽しくってたまらないって風なのかな。
 筆の運びというか、目が文字を追う速度が、気分がいい時のスキップみたいだ。軽やかだけど一語一語が的確。遊び心は感じるけれど、即興ダンスではなく、一級の演武のよう。
 物凄い才能だと思う。遠巻きに読んでるうちはいい。妙な色気を出して近づくと、致命的な怪我を負いそうな。触るなキケン。
 
 
2023年8月27日【読了】

 読み進むほどに胸が苦しくなり、ページをめくる手が重くなった。

 読み終わった時には思いを言葉にしたいのに、鳩尾あたりでわだかまるばかりで、どうにも吐き出せなかった。

 

 そもそも。

 何故、本作に『カケラ』というタイトルをつけたのか?

 そもそも。

 一人の少女の人生を追いかける役目を、この女医――敢えて私見丸出しで言うならば「あんぽんたん女医」に担わせたのか?

 

 最後の最後まで、登場人物の誰にも感情移入することなく、それでも襟首ひっつかまれて引きずられるように読んでしまったのは、湊節の巧みさとメインテーマの昏さによるところが大きい。

 個人の美意識が「多様性」という便利なようで扱いが難しい概念によって、爆発的に裾野を広げている現代。個々の美意識は、融解して豊かに共有されるよりも、せめぎ合いお互いを喰い滅ぼそうとする場面を多く見かけるようになった気がする。その有り様をグロテスクにデフォルメして、手加減無しで見せつけるのが本作品の役割であるならば、なるほど、物語の牽引役は多少モノゴトに対して鈍感な女医が適任なのかもしれない。

 

 そして、カケラというタイトルに立ち戻る。

 この空々しさ。残酷で、無責任で。

 時代に向けて放たれた一片のそれは、ゆっくり静かに、読後の心に疑問――あんたの化けの皮は、偽善の皮下脂肪は、何層あるの?――を無感情に突きつけてくる気がした。