あらたま@メモ魔通信

くらしの一コマ、ねこ、きもの、ラーメン、読んだ本、などな日々の活動メモ。書いて、読んで、猫と暮らす。丁寧ではないし、断捨離もしてないし、OLもしてません。

【読書記録】犬はかわいい


 文学フリマ岩手でお迎えした作品。

 ほんとは東京会場でお迎えしたかったんだけど、第一会場の熱気と人の多さがすさまじく、生まれついての方向音痴である私(自ブースは第二会場だった)は入場と同時に行き先を示す矢印を見失って、出口専用扉からペッ!と吐き出されてしまった。

 ナカノヒトリさんが岩手にも出店されると知り、私もたまたま岩手のブースに当選していたので、この機会を逃してはならぬ!と鼻息荒く本書を手に取った。

 

【読み始め】2024年7月30日
【読み終わり】2024年7月31日

 

 

 
2024年7月31日【読了】

 コンフォートゾーン、というものがある。

 心理的安全領域、とでも訳されるようだが、実はこれなかなかにクセモノらしい。

 ストレスも不安もなく文字通り安全安心の「ぬるま湯」みたいな状態や環境だけど、人間というのはそこに永住することはできない……らしいのである。

 また、傍から見るとストレスまみれに見える環境でも、住めば都というか、慣れ親しんでしまうとコンフォートゾーン化してしまうこともあったりして、いわゆる依存症とか?やめるにやめられないジレンマの元凶として機能する場合もあるんだとかナントカカントカ……苫米地英人先生の御著書の内容を反芻し、うろ覚えとはいえ、その意味するところに再びの戦慄を覚えているところだ。

 

 なんでこんなことをメモしてるかってェと、本書で要らん嘘をついた主人公が、その嘘によって自ら人生のコンフォートゾーンを抜けざるを得なくなり、のっぴきならない状況に陥っていたからである。いやあの嘘は、もしかしたら、意識せぬままコンフォートゾーンを抜けたいと願っていた末の、魂のささやかな悲鳴だったのか?

 いずれにせよ、である。

 境界線を跨ごうか、跨ぐまいか。

 いや、跨がないと、その先にしか道はないんじゃないの?――

 そんな人生の『まばたきみたいな一瞬』を、ナカノヒトリさんは淡々と、それでいて鋭利に切り取っている。

 

 私はこの物語を、主人公の『成長』の物語であると言い切ることができない。

 主人公は小さな不便や不満の中を泳ぐが、今の段階ではそれらが解決に至ったかどうかはわからず、それこそ主人公の人生の行きつく先で彼女のみがその答えを知ることを許されている……のだろうと思う。こういう温度感、物語と読者との距離感を、絶妙にはかってくださるナカノヒトリさんのセンスが、私は大好きだし、信頼できるなあと思うわけです。