あらたま@メモ魔通信

くらしの一コマ、ねこ、きもの、ラーメン、読んだ本、などな日々の活動メモ。書いて、読んで、猫と暮らす。丁寧ではないし、断捨離もしてないし、OLもしてません。

映画『インターミッション』を観に行きました


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2022年9月23日。この日はちょっと特別な日になった。

 映画『インターミッション』が約10年の時を経て、池袋ヒューマックスシネマズでリバイバル上映が決定した。

 しかも撮影時の監督と銀座シネパトスに密着したWOWOWのドキュメント番組を同時上映することで楽しみが倍増するという仕掛け……さらに役者さんと監督のトークショーもあるという。

 一本の映画を楽しむために、まさに怒涛ともいうべきホスピタリティ。

 この「物凄い企画」の初日に、普段サブスクでホラー映画ばかり漁っている私が一席ご用意いただけるという御縁が舞い込んだ。濃密な「なんでも有りな映画の時間」を体験した記録を、なるべくコンパクトにまとめておきたいと思う。

 

映画『インターミッション』とは?

 舞台となるのは2013年まで銀座・晴海通りの地下にあった「銀座シネパトス」という映画館。戦後復興の折、がれきを埋め立てた川の跡地に三原橋地下街というのができて、そこにオープンした名画座がシネパトスの前身なのだそう。

 私は『インターミッション』という作品を今年になって知ったくらいなので、シネパトスという映画館のことを全く知らなかったのだけど……ひとたび当時の様子を聞き及ぶや、己の無知をこれでもかと呪った。

 まず、その特異な建物

 地下鉄騒音や雨漏りやネズミとの闘いなど、とても映画鑑賞に向かないと思われる。それなのに、元シネパトスのスタッフさんが当時を振り返るにこやかな様子はどうだろう。そんな環境ゆえに味わい深い映画のカタチというのがあってもいいじゃないかとワクワクしてしまう。

 また、上映作品もメジャーどころから名画特集、文学性が高いアート作品からエログロ上等なお色気モノまで、面白い映画とあらばどんどんかけちゃう!という方針だったそう。集客率?なにそれおいしいの?てなもんである。

 そんな独特の映画愛とアナーキズムが詰まった映画館も老朽化で閉館を余儀なくされることになった。東日本大震災の容赦ない爪痕はすさまじく、都の要請もあっての決断だったそう。

 しかし、ここからがこの映画館が多くの人々に愛されたという「証の物語」の始まりだったようだ。

 シネパトスを盛り上げてきた作監督の樋口尚文さんの呼びかけに賛同した俳優さんや多数の映画人の皆さんの情熱で、劇場閉館そのものをテーマに映画を撮ろう!てことになったのだ。

 

この作品と私を結んだ「御縁」て?

 映画『インターミッション』の監督である樋口さんを知るきっかけは、実は映画と関係がありそうでなさそうなお話。

 樋口さんが神保町でシェア型書店を開店なさったのだけど、これがもう店構えから店内装飾から、本に挟むスリップやお品書きになってるカードまで、何から何まで私好みだった。

 店名はその名も『猫の本棚』という。それこそちょいとマジカルなファンタジー映画にそのまま出てきそうでしょ?

nekohon.tokyo

 猫好きで書店好き、もう一つオマケにお店屋さんごっこが好きで、やるなら本屋さんだよ!と夢見ながら、いつかはひとり出版社を立ち上げたいとコソコソ活動している私。全くの偶然で、この書店の棚主募集の文字を見つけた

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 猫の本棚で虎徹書林の実店舗っぽい活動をさせていただく中、樋口さんの御人柄や経歴にふれ、やがて樋口さんに惹かれた人々が一本の映画製作のために集ったという話を朧げに知っていく。そしてほええええ!銀幕のスターばっかりの超豪華映画だ!と驚きが深まり観てみたいなあと期待が高まるばかりのところへ、樋口さん御自身から『インターミッション』のリバイバル上映のお話を教えていただいたのだった。

 超難解な立体パズルに放り込まれてシェイクされたみたいな、摩訶不思議な御縁がこうして繋がった。

 たくさんの映画ファンがこぞっていらっしゃるだろうな……劇場の隅っこでもいいから、鑑賞の機会をわけていただけたらラッキーだなと、ダメもとで挙手したらまさかの初日のお席に座れてしまったことも書いておきマスm(__)m

 

まずはスクリーン上映初のドキュメンタリーから!

 今回の上映劇場は、銀座シネパトスの雰囲気に近いということで、池袋ヒューマックスシネマズの地下二階にあるシネマ5

 地下特有のすこし湿度の高いフロア。

 こじんまりとしたロビー。

 そこはかとない昭和感を匂わせる、絶妙に重ための照明。

 シネパトス未経験者としては、どうしたってワクワクしてしまう。


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 銀座シネパトス最後の支配人・鈴木伸英さんの御挨拶に続き、ドキュメンタリーの上映が始まった。

 この映画にこれだけ豪華な顔ぶれの映画人が集ったのは何故か?という問いに対する答えが、静かに濃厚に詰まった超面白映像だった。

 樋口さんの映画人生の初期には既に、大島渚監督との出会いがあった。

 その交流の深さや大島渚監督の御人柄は、少年時代から今に至る樋口さんの背中に色濃く見て取れて、そりゃあ個性的な映画館を骨太に盛り上げる道を歩まれるなあと納得。思わず、泣いた

 大島監督だけではない。大林宣彦監督が試写後に溢された涙の意味、樋口さんが監督として「バカヤロー!」と思わず叫んでしまう熱意。このリバイバル上映のためにテレビ放映番組をスクリーンにかけるという企画が立ち上がったとのことだけれど、むしろ絶対セットで観た方がいいでしょ!と言いたくなる良作品だと思った……。

 

主演の秋吉久美子さんと樋口監督、御登壇!

 本編スタートまでに、30分ほどのトークショーがあった。監督の初日の御相手は、支配人クミコさん役の秋吉久美子さん。

 お二人のユーモアと知性が作品を軸にして炸裂するような、これまた本編の面白さを一段ブーストさせる楽しいひとときだった。まさに「贅沢なインターミッション」て感じ!


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 ドキュメンタリーの中で象徴的に切り取られた「バカヤロー!」のシーンについて、番組で語られていた内容は『全く違う』と樋口さんが語られたときの、場内のホンワカした雰囲気がとても印象的だった。樋口さんの御人柄の真骨頂を見た!という気がしたのだなあ。

 秋吉久美子さんといえば大河ドラマ独眼竜政宗』をすぐに挙げてしまう私。

 その当時から比べたって、現在の秋吉さんはビッ!と意志の強い背骨で立ってらっしゃるという印象が全く変わらない、美しい人でらっしゃった。

 樋口さんは「時を超えるのに成功している」と表現してらして、まさにその通りと頭の中で猛拍手。そんな秋吉さんは樋口さんの事を「少年の時の映画への眼差しを、そのまま持ち続けてる人」と仰っていた。そしてその印象がドキュメンタリーを通してさらに確固たるものになった、とも(言葉を尽くして熱く語ってらっしゃった内容を私なりに要約してます。細かいニュアンスが間違ってたらごめんなさい)。その的確にして鋭い視点、納得の指摘に、今見たばかりのドキュメンタリーで拾い切れなかったポイントをご教授いただいた気分だった。

 

 密着ドキュメントに深掘りトークを重ね、気分を最高に盛り上げてからの本編上映……この構成考えた人、天才じゃね?って素で思ったのはここだけの話。

 

映画『インターミッション』上映!

 これまで見たこと無いドデカさの映倫マークと、名画座に一歩足を踏み入れた時の高揚感を彷彿とさせるピアノ演奏が印象的なオープニングで既にただならぬ気配を感じた。また「あ、この映画は無理矢理『感動のフィナーレを御一緒に』なんてことは言わないんだ!」と大いに安心もし、何も考えずに作品に没入する私。

 

 老朽化で閉館間近の映画館オーナーのクミコさんと夫のショータさんの関係性を追いかけつつ、カメラは日々この映画館を訪れるクセ有・訳アリなお客さんたちの様子を切り取る。これがもう……最初のお客さんから閉館の日の最後のお客さんまで、ハチャメチャな人ばっかり!だから楽しい、面白い!

 

 或る女優さんは台詞を通して、それぞれの時代の作品の「私」がフィルムの中に居てそれらが一本の流れのようだ……というようなことを仰るのだけど、私はこのシーンが作品全体を象徴しているように感じた。

 というのも、この作品の真の主役ともいうべき劇場「銀座シネパトス」は既に無く、出演なさっている役者さんの中にも亡くなったことが惜しまれてならない方々がいらっしゃる。その活き活きとした姿はフィルムの中に……とは言え、そのフィルムをかける映画館が無くなったら?フィルム自体が経年劣化で使用に耐えなくなったら?今は映画もデジタルの時代だけれど、名画と呼ばれる映画を映画として映画館で鑑賞するという機会そのものは徐々に失われつつあるのだ。

 しかし本作『インターミッション』は、ノスタルジーや寂寥感を「隠し味」にしこそすれ、前述のハチャメチャに楽しいお客さんたちによる起爆力充分のオムニバスを数珠つなぎにして、銀座シネパトスが発信し続けたアナーキズムや映画館という箱にギュウギュウ詰めになった映画ファンの愛情を見せつけ笑わせにくる。

 いつかぶっ壊れるなら、創って残せばいいじゃないか。いっそのこと、こっちからぶっ壊してやるのもありじゃないか?みたいな。カラッとしたシンプルなメッセージ。だってクミコさんが言ってたもの「映画ってね、なんでもありなのよ」て。

 

結論。観に行って良かった!

 冒頭で述べた通り、私は映画は好きだけれどサブスクでも十分お腹いっぱいになれるタイプだし、ホラー映画や特撮(怪獣とかヒーローとかの方)映画ばっかり好む質だ。そんな私でもしっかり各エピソードを楽しめるほどに、本作はシネパトスという映画館の特異さと映画の面白さが深く追及された、軽快でちょっぴり寂しい地下鉄風味なエンタメ作品だと思った。

 とはいうものの、各オムニバスの元ネタをほとんど知らず、銀座シネパトス未経験の私がここまで楽しめたのはやはり、ドキュメンタリーとトークショーの強力な支えに拠るところが大きかっただろう。

 撮影風景と実際の閉館日までの景色に密着したドキュメントは、ほんとのほんとに「私もこの場に居たかったなあ!」と羨ましさ全開で見ていた。地下鉄の走行音と雨漏りの中でみる、自分が生まれる前に創られた映画ってどんな味がするんだろう?体験したかったなあ。一回でいいから。

 

 

最後になりましたが

 この機会に私を紐づけてくださった『猫の本棚』のオーナーご夫妻と同席されていた棚主の皆様や御客様、関係者の皆々様に、ひとときご一緒に楽しめました御縁に深く感謝申し上げます。

 目立つことや強力なことはできません私ですが、今後もすみっ子棚主として「本屋のおばちゃん」気分を楽しみつつ猫さんたちのくらしの一助になれるよう、コツコツやってまいります。あらためまして、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

*1: 今思えば滅茶苦茶失礼なんだけど「自分の本にこちらのお店のかわゆいスリップを挟みたい!」ということで頭がいっぱいの私は、こちらの「超気さくな本屋のおじさん」が映画監督で映画評論家で御著書もたくさんあって……ということを丸で知らなかった。この場を借りて土下座して謝りたいと思います。本当にすみませんでした。