アイヌの昔話 (ちくま学芸文庫)posted with amazlet at 10.03.10
筑摩書房
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だいぶ前に読み終わっていたのですが、自分の中で自分なりに消化するために、読後メモを書くのを先延ばしにしてきました。
主語が入れ替わったり縮尺がダイナミックに変化したりするなど、世界観が独特すぎてついて行くのがやっとなところもありますが、それはそのままアイヌの価値観を表しているのだと思いました。
小さな生き物も大きな生き物も、この世はぜーんぶつながっている。とぎれてるところなんて、無いのです。
ときにユーモラスにときに厳しく。アイヌの神様たちは、想像以上に自由闊達です。小鳥の姿を借りたかと思えば、大きな鯨と同じスケール感でもって接したりします。
だから、ミクロからマクロまで、すべての命を平等に扱います。かといって、むやみに哀れんだりせず、人間も含めてみんながみんな生きて生かされていることに、前向きです。狩りも採取も、感謝の気持ちを忘れず、得た物はみんなで分けるのです。いのちさえも、とぎれることなくつながっているのですね。
厳しい自然の中に身を置き、見えない力を畏怖し、それでも心穏やかに楽しく生きていく知恵。アイヌの昔話にはそれらが見事に詰まっていて、正直なところとても驚きました。
取り立ててありがたそうな言葉や、どうとでも解釈できるような曖昧な言葉を並べることはしないので、前述の「世界観」さえ把握すれば、なにも難しいことはないのです。
ただただ「民俗学の興味の一環」だけで読むには、少々もったいない一冊かなと思います。